|
嫌いでもいい 2 その後帰ってからも、なにかにつけてカカシはに甘えっぱなしだった。 「ー。」 肩口から名前を呼ぶ声が、いつもよりもうんと甘ったるい。 料理1つするにもなにかにつけて、背中から離れようとしなくて さすがにお風呂にまでついてこようとしたのにはびっくりしたけど。 「カカシさん、私お風呂入りたいんですけど。」 「うん、だから一緒にはいろ?」 「いやです。」 「なーんでよ。いいじゃないそろそろお風呂くらい。」 「い・や・で・す。」 きっぱりと言い放つと、ソファーでしゅんとなっていたが それでも心を鬼にしてその場にカカシさんを置いて私は1人風呂場へと向かった。 ・・・・ちょっときつくいい過ぎたかな。 湯船に浸かりながら、は先ほどのやり取りについて考えていた。 でも一緒にお風呂に入るのってなんかいやなんだよね。 別に裸をみられるのはまぁ、この際よしとして ・・・・っていうか、未だにエッチの時に照れちゃう自分もどうかと思うけど。 じゃなくて、髪とか洗ってる間に相手が湯船にいるわけで それがカカシさんだからもう絶対これでもかってくらい、 私がシャワーを使っているのをニヤニヤと見てる気がする。 最初のうちだけだっていうのもわかってるんだけどねー。 ・・・・でもその最初のうちが堪えられないのよ! 絶対絶対、ぜーったい! カカシさんの性格と今までの経験上、なにかしらからかわれるに決まってる。 ただでさえ隙があるだの、無防備だの自覚がないところで突っ込まれるのに どう考えても自分でもそんな姿は、無防備極まりないと思う。 別に密室で、しかも相手は自分の彼氏であるカカシさんにそんな構えなくても って思うけど・・・・・思うけど! 「無理・・・・・やっぱなんかむり。」 でも一応謝っとこう。・・・・・気になることもあるし。 とちょっとした決意でしめくくり、はお風呂を後にした。 「カカシさん?」 「んー?」 がお風呂から上がると、カカシは至っていつも通りに ソファーに腰掛けて愛読書のイチャパラを眺めていた。 そしてその足元にはムサシがいる。 「お風呂、次どうぞ。」 「はーい。」 パタン、と本を閉じてカカシが立ち上がると がなにか言いたそうにもじもじしているのが目に入ったので、その顔をのぞいてみる。 「?」 「あの、」 「どーしたの?あ、もしかして夜のおさそい?」 「なっ、///・・・ち、違いますー。」 顔が真っ赤になってるのはきっと風呂上りの所為だけではない。 「だよねぇ。でも、ま。さっきのことならオレ別に気にしてなーいよ。」 「え?」 ようやく顔をあげて、少し上にあるカカシさんの顔を見ると なにも隠されていないその表情はとても優しい。 「それよりちゃーんと頭、かわかしなさいよ。風邪ひくから、ね?」 「は、はい。」 「ん。オレがあがってくるまでにベッドに入っておくよーに、いいね。」 最後に私の頭をポンポン、と軽くたたいてお風呂場に向かっていったカカシさん。 なんだかきっかけを逃したというか、 うまいことかわされたような気がするというか。 帰り道に気になった視線のことをもう1度聞こうと思ったのも、 きっととっくにばれていたに違いない。 こういうときに、はカカシのことが少しだけわからなくなるような ひどくじれったいような、もどかしい気持ちに襲われる。 カカシの全てを知ることなど出来はしないのはわかっているし、 もちろんそんな理由で相手を困らせる気も微塵もない。 自分とカカシが別の人格を持った人間なんだということは、ちゃんとわきまえているつもりだ。 ただ、カカシといるとはしばしばそれとは程遠い次元にいる感覚に陥る。 カカシが初めから自分の求めているものを知っていたみたいに振舞うのもそう。 だから、自分とカカシが当たり前のように違うという事実を見せつけられたときに どこか心のすみっこでショックをうけたような気になるのだ。 そんなの当たり前なのに。 そこまで考えて、足元にいるムサシの視線を感じた。 「頭かわかさなくていいのか?」 「あ、そうだった。」 「あいつの事だからお仕置き、とか理由つけてなにされるかわからないぞ。」 「・・・・・それは非常にまずいかも。」 パタパタと、が慌ててドライヤーを取りに行く後姿をムサシは黙って見つめていた。 そして時刻は深夜、草木も眠る忍の時間。 あー・・・・めんどーだねぇ、どーも。 パチリ、と暗闇で開いた1つの瞳。 今回はなにも気づかずに、隣ですやすやと眠るを起こさないように カカシはそっと心の中でため息をついて、ベッドを抜け出るとその足でまっすぐリビングへと向かった。 「オマエさぁ、ちょっとは時間考えろよ。」 窓をカラカラと開けると同時に、 姿は見えないがその人物が居るであろう方向にむかってカカシは声をかけた。 「すみません、先輩。ご迷惑をおかけするつもりはなかったんですが。」 そう言って、いつのまにか闇の隙間からあらわれたのは暗部姿の1人の男。 洗練された、無駄ひとつない身のこなしでその場に佇む猫の面をかぶる男とは対象的に カカシの方は、ポケットに右手をしまいあくびをしながら左手でうなじの辺りを掻いていた。 先日は久しぶりにその姿を目にしたものの、ほんのひと昔まではカカシ自身も同じ格好で身を固め 常にと言ってよいほど、行動をともにしていたことをこの時ふとカカシは思い出していた。 カカシが行く先々に、任務・プライベート関わらずテンゾウは付いていったし カカシもそれについては何も言わなかった。 むしろ一緒にこない時のほうがなぜかと問うた。 2人の近すぎる関係が少々異常だと、里の中で噂されていたのも知っている。 「いやぁー、もう完全に迷惑。」 カカシは今度は隠さずに大きくため息をつき、腕を組みながら横を向く。 「はは、相変わらずキツイですね。」 今のゆるいカカシの姿が、暗部の自分がよく知っていた頃の姿と 随分かけ離れていることに今さらながら驚いて しかし、今のカカシは隙だらけだとみせかけておいてどこにもそんなものがないことに テンゾウは面の下で笑みを押さえきれなかった。 「で、こんな時間にわざわざオレん家まで来てなんの用?ってか、今日のあれもどうせオマエでしょ。」 「さすが先輩、ご名答。」 「くだらないクイズに付き合ってる暇ないんだよね、正直。」 て、ゆーかニヤつくなよ。キモイ。 とまたしてもため息をつきながらカカシはきつい言葉を次々と投げかけていく。 あれ、でも先輩。ボクの表情見えてませんよね? と声の調子だけで伝わる感情に、テンゾウは確信を得た。 「ボクの話はいつだって同じですよ。」 「オレの答えも一生おんなじよ?」 一瞬にして、2人の間に流れる空気が変わる。 まだ少し余裕なテンゾウに、カカシは視線だけで殺気を送った。 そしてその殺気を受け取ったテンゾウは、面の下で再び口角をあげた。 それこそカカシ先輩には、 暗部としての呼吸の仕方から、女の抱き方まで全てを教わった。 ボクにとってのカカシ先輩は、忍の生き方そのものだったのに。 それを先にやめると言い出したのは先輩のほうだった。 『テンゾウ、オレ今日限りで暗部抜けるから。』 そう告げた直後、ボクが後を追わないようにほとぼりが冷めるまでと 先輩が三代目に手を回して就いた思いっきり地下活動な任務がやっとあけて里に戻ってみると、 カカシ先輩のとなりにはあの女がいた。 ボクがずっと焦がれていたとなりの位置で、あの女は笑っている。 「先輩、どうしてですか?女なんかにデレデレして。かっこわるいですよ。」 「別に今さらかっこよさなんか求めてなーいよ。」 「どうしたら昔の先輩に戻ってくれるんです?」 ボクは以前の先輩との関係に戻りたいだけなのに。 なのになんで、どうして。 カカシ先輩 教えてください、ボクがとなりじゃいけないんですか。 ナンデナンデナンデナンデ ―――――アノオンナガニクイ 「はぁ?もーこないだといい、オマエいい加減に」 「そうだ、ボクがあの女を殺してあげましょうか。」 テンゾウはそれを知っていてわざと、今のカカシにとって1番の地雷を踏んだ。 本気の殺意をその言葉に添えて。 「テンゾウさぁ、いつからそんなにジョーダンがうまくなったわけ?」 「あれ、冗談に聞こえます?」 「そんなのオレがさせてやるとでも思ってんの。ずーいぶんと偉くなったもんだねぇ。」 「なぁ、テンゾウ?」 どこに隠していたのか、 それとも思い出したのか。 カカシ先輩はそれだけで下忍なら精神障害を起こしそうな殺気を、瞬時に全身から発した。 当時と変わらぬ、突き刺すような視線。 あぁ、その瞳が見たかった。 魂をにぎられてるカンジが理屈ぬきに、ボクをぞくぞくさせる。 ボクにはわかる。 先輩とボクの絆はまだ完全に切れてはいない。 「さぁ?やってみなくちゃ分からないんじゃないですかね。」 「ふーん、・・・・・じゃあ今この場で殺しとこーかv」 カカシは閉じていた左瞼をあげ、写輪眼でまっすぐにテンゾウを見た。 口調はいたって穏やかだが、確実にカカシの周りの温度だけが1℃どころか2・3℃は低い。 「仲間殺しは重罪ですよ?」 「じゃあオマエさ、今からでも里変えしてよ。」 「やだなぁ、先輩。ボクはいいですよ、先輩と同じ隠れ里ならどこでも。」 埒が明かない、とカカシは本日何回目になるだろうため息を大きく吐き出した。 「今この場でオマエ殺して、とムサシ連れて逃げるしかないみたいね。」 オレはあの子がいるだけで、いつまでだって生きていける。 を愛した時点で、覚悟なんてものはとっくにできていた。 しばしその場で互いににらみ合うこう着状態が続いていたが、 それをさきに破ったのはクスクスと笑い出したテンゾウの方だった。 「先輩やっぱり人が変わりましたね、でもいざとなると先輩の殺気が昔と全然変わらないので安心しました。」 「ねぇ。オマエさぁ、やっぱ頭おかしーんじゃないの。」 テンゾウが面を外し殺気を緩めたことで、 カカシも再び写輪眼を瞼の奥へと隠し、緊張状態を解いた。 「正直言ってあの女は気に入りませんね。」 「別に気に入らなくていーよ、ってゆーか金輪際同じ空気すら吸うな。」 「えーそれは無茶ですよ。」 そう言ってニコリと笑うテンゾウの素顔は、数年前とほぼ変わっていないような気がした。 変わったのは、大きな瞳いっぱいに自分を見る視線に鋭さが増したところだろうか。 ただ、直接表情が見える分テンゾウの本心が随分と読みやすくはなった。 ・・・元々思ったことはそのまま口にするタイプだけど。 そもそも自分の感情を殺すことに疑問も抱かなかったテンゾウが、 ここまで自分本位に動くこと自体に驚きだよ。 「そっかー・・・じゃ、やっぱりオマエこの場で死んどく?」 「ははは、カカシさんこそ冗談うますぎます。」 「冗談のつもりはないけどねぇ。」 会話の内容に比べて、雰囲気はまだ軽さが混じっていた。 しかし、カカシはテンゾウの出方によって本気でそうしかねない空気も十分残していた。 再び2人の間に沈黙が訪れたところで、テンゾウは外していた面を元の位置に戻した。 カカシはまっすぐに、その猫面に隠されてしまった瞳の奥を見つめる。 「カカシ先輩。それでは、また。」 多分、無表情でそういい残すとテンゾウは再び闇の中へと戻っていった。 その場には夜の冷たい風が吹き、カカシ1人が佇む。 「またもなにもないでしょーよ。・・・・・・二度と来んな。」 聞こえはしないだろう声を、 カカシは先ほどまで聞かせたい相手がいた場所に向かって言い捨てた。 窓を閉め、何も知らずに眠る愛しいの元に戻ろうともうひと吐きため息をつくと ようやくその存在はカカシに声をかけた。 「出てきたほうがよかったか?」 「いや、必要なーいよ。」 これはオレの問題だしね。と振り向いてカカシは言った。 ずっと後ろにムサシが居たのは知っていた。 ただ、テンゾウがどう動くか予想がつかない以上あらゆる可能性を考えて どちらにも対応できるようにとその名前は呼ばずにいた。 ムサシもそれを理解して、後ろで黙って話を聞いていた。 「そうか。でもオレはオレ個人の感情で動くぞ。」 「ま、そっちの方が助かるよ。」 いちいち言わなくとも、ムサシならその場の判断で 自分が望む最善の行動を取ってくれるだろうという絶対的な信頼が2人にはある。 だからこそ。 「なんかあったら頼むね。」 どうともとれる短いこのカカシの一言に、自分にもしもの事があったら という思いまでを正確に読み取って、ムサシは簡単に鼻で笑った。 「そういう頼み事は一切お断りだ。」 「ははは、それもそーね。」 それがどれだけ渇いたものでも 笑えている自分は、まだ大丈夫だと思った。 次でおしまいです! もっちろん戦闘シーンなんてかっけーもんはありません、書けません。 カカシ先生は、テンゾウのまっすぐすぎる尊敬に 怖くなって暗部を抜けた的な解釈がワタクシ的に非常に萌えです。 にしても、ワタクシが書くテンちゃんはまったく本誌とかけ離れすぎている! ファンの方はごめんなさい。 |